スウェーデン第3の都市、マルメには「Rosengard(ローゼンゴード)」と呼ばれる地区があります。この地区は、移民が多く住んでいる地区として有名です。 住民の60%が外国生まれとされ、スウェーデン語以外の言語を話す就学児童は90%ともいわれています。
もともとこの地区は、60年代、70年代に安価な高層アパート群が建設され、その頃ちょうどスウェーデンに移住してきた外国人に提供されてきました。同時にスウェーデン人は他の地区へ引越していき、 90年代には、新たな移民の波がアラブ諸国、旧ユーゴスラビア、アフリカ諸国から訪れ、現在のような状態になりました。
いわゆるゲットーと呼ばれる地域は、ほとんどが郊外に位置しているのに対し、「ローゼンゴード」は市の中心部からほど近い場所にあります。 しかし、スウェーデン社会との隔絶や失業率の高さがしばしば問題にされている地区です。
そんな折、先日、政府のある機関からこの地域にイスラム急進派が急増しているとの報告書が出されました。報告書によると、急進派グループによって、ヴェールを被っていない女性に対する脅迫、13,14歳の女の子の強制結婚、男の子と女の子が一緒に遊ぶことの禁止、などが行われているとのことです。 それに対する対策案として、この地域の学校の取り締まりの強化、警察との連携、住宅難の改善等が推奨されています。
しかし、この報告書に地元の大学のイスラム研究家などから反発の声があがりました。報告書は、地元警察、ソーシャルワーカー、学校長など30人のインタビューに基づいているとされていますが、ほとんどが実体験ではなく、人に聞いた話などで構成されており、実際に肝心の急進派グループとのコンタクトが一度もとられていないなど、真実味に欠けていることが指摘されています。 そしてこのような報告書は、イスラムに対する恐怖感を煽る結果になりかねないとの懸念がされています。
この地区に住み、ソーシャルワーカーとして働いているスウェーデン人女性もこの報告書に疑問を抱き、新聞のインタビューで「この地区に問題があるのは確かだが、2万1千人の住民全員を過激派と見なすことはできない」と答えています。
スウェーデン人の中には、「ローゼンゴード」の住民達は生活補助金をもらうことしか興味がない、と考える人もいるが、との問いには「いったい誰がそのような生活がしたいでしょうか」と切り返しています。 実際に毎日移民と接触して働いている人ならではの現実味のある返答です。
地区の住民のほとんどが戦争のために母国を離れなくてはならなかった人々です。彼らが異国で、言葉を覚え、新しい教育を受け、仕事につくには相当な努力が必要です。
そのために社会は、移民を隔絶することなく、さらなる援助をしていかなければなりません。移民との融合政策は、今後も引き続き最も難しい課題のひとつであるといえるでしょう。
次回の"スウェーデンからの報告"をお楽しみに!!
参考:
Claes Furstenberg, "Okad radikalisering i Rosengard", Sydsvenskan, 2008 /01/28
Kenan Habul,"Ofta gar jag hem ensam klockan elva pa kvallarna", Sydsvenskan,
2008 /01/28
Claes Furstenberg, "Rapporten om Rosengard doms ut", Sydsvenskan, 2008 /01/29